特集 小鉢さんちのおおらかな暮らし
 
第1話 小鉢さんは家も作る人だった
キッチンの壁にはさまざまな形のカッティングボードがずらり。毎日どれかしらを使っています。
 大きいのや小さいの、長いのや四角いのや、まる。壁いっぱいにぶらさがったカッティングボードを見て、「あら、これうちで使ってる!」と気づかれた方、誰の家かおわかりの方もいらっしゃるかもしれません。ここはショップで大人気のカッティングボードを作っている彫刻家の小鉢公史(ただふみ)さんの家のキッチン。お願いしていたカッティングボードや木べらができたと連絡が来たので、ピックアップがてらおじゃましたのです。大橋から「ほんとうにおもしろい家、楽しい家」と聞いていたので1度伺いたかった。それがかないました。
 車を北東に走らせ、高速をおりて川を渡りごぼう畑の向こうの樹々の間に見えたのは、オレンジ色の外壁に大きな窓のある、日本じゃないみたいな、一軒の家とふたつの小屋。「わー!」。でも扉をあけて中に入ってさらに「わー!」。今まで見たことのない感じなので、言葉がみつかりません。日本じゃないみたいと書いたけれど、どこかの外国でもない。ここにしかない空間です。
 業務用のガスレンジと、年代物の木のテーブルをくりぬいて作ったシンクがおさまったキッチン。小鉢さんや妻の画家のかおりさんの作品と、娘の月夜ちゃんのランドセルがなかよく並ぶリビング。かおりさんのアトリエの入り口にはブラジャー?(その秘密は第4話で明かされます)。なんだかとてもおおらか。お昼のしたくにかかるパパにかわって、月夜ちゃんが家の案内をしてくれました。家族3人ここが大好きで大事にしているのが伝わってきました。
  • 月夜ちゃん。犬のティトーと猫のキャンティも迎えてくれました。小鉢さんがデザインした鉄扉の奥にパティオがあります。
  • リビングの壁はあたたかなイエロー。小鉢さんやかおりさんの作品の並ぶギャラリーにもなっています。
外壁や水回りなどプロの手が必要なところ以外は、小鉢さんとかおりさん、そして友人たちが時間をかけて作りました。ああしたい、これが欲しい、といまだに改装したり増築したりが続いていて仲間にはサグラダ・ファミリアと言われているそう。
庭に面した大きな窓から光と風が差し込んで気持ちのいいキッチン。シンクは、大きなテーブルをくりぬいて作りました。未完成の部分もあります。
 
  • 大きな窓は、外側の鎧戸とガラス戸と内側の陽よけ板の3枚組。ぐい、と手を伸ばしたり引いたりして開け閉めします。
  • 壁にはベネチアングラスでできたステンドグラスをはめ込みました。中央にフィレンツェの紋章が。
小鉢さん夫妻は4年ほどアートを学ぶためイタリアに住んでいました。帰国したら土地を探して自分たちの住まいやアトリエを作ろうと計画。片田舎の解体業屋さんで見つけた窓枠や戸板、ステンドグラスをコンテナで持ち帰りました。それがいろんなところに生かされています。
楕円のテーブルは、いただいた近くの神社のご神木で作りました。小鉢家最初のカッティングボードも同じ木からできたものだそう。
庭にはピザ焼き窯や、バーベキューグリルが。本当は陶芸用の窯のつもりでしたが温度が上がらず断念。でもちゃんと活躍しています。
家とアトリエの通路の木の椅子も小鉢さんの作品。訪ねてきた近所の方がいっとき座って話をしていきます。
ヘリンボーンのような床がいいなあ、と思ったらこれも小鉢さんが木材をカットして並べたのだそう。
たくさん楽しいものがあった月夜ちゃんの部屋。木のブランコもパパが作りました。
「100歳まで現役で作っていないとやりたいことが終わらないんです」と小鉢さん。作りたいものが彫刻作品だけでなく、家も家具も道具も次々にあるそうです。リビングの主のような大きなテーブルも月夜ちゃんのブランコも庭のピザ窯も。彫刻も毎日の生活もどちらも大切。そんな中からカッティングボードが生まれたんですね!
 
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