特集 廣田理子さんのガラスのアクセサリー
第1話 ガラス工房見学
今回限定販売する廣田さんのガラスのアクセサリーの一部です。アイテムはネックレス、チョーカー、ピアス、ヘアゴムなど。ガラスをつなぐ麻ひもや布ひも、ワイヤーもオリジナル。
無色透明なアクセサリー
 イオショップ&ギャラリーで廣田理子(あやこ)さんのアクセサリーをご紹介するのは昨年に続き2回目となります。去年はじめて見たとき、なんとなくあったガラスのアクセサリーに対するイメージが一変しました。ガラスが透明かフロスト、無色だったからでしょうか。見たことがないという理由だけでなく、手持ちの服にもあわせやすそう、とひかれました。透明だから服の色とけんかしないし、清潔感があります。静かだけれど、ガラスに差し込む光がきれい。このとき買ったアクセサリーはその後していくとよくほめられました。「どこの?」と聞かれることも多かったのです。だから今回の工房見学はとても楽しみでした。
  • ご実家の庭の空きスペースに建てられたガラス工房。ローコストにしたくて、親戚の家が建て替える際、ドアなどをもらってきたそう。
  • 作業中のりりしい廣田さん。バーナーでガラスを熱しているところ。左からのびているのは排気管。
暑さを感じないぐらい熱い
 アクセサリーのガラスのパーツをつくる工房は、ご実家の庭の一隅に建っていました。伺ったのは梅雨明け直後の猛暑日。
 「こんな日に申し訳ないです。でも火が熱いので部屋の中では暑さを感じないかもしれません」と廣田さん。ガラスを加工するために使うバーナーは時に2000℃以上になると言います。仕事をするときは袴に着替えます。動きやすいし、腰のところでぎゅっと紐を結ぶと体の中心に力が集まるように感じるからだそう。目には作業用のサングラス、首には手ぬぐい、男らしいというかかっこいい!
  • バーナーで熱されたガラス管はかたちをかえ、糸のように伸びます。
  • これは柔らかくしたガラス管に空気を吹き込んでまるく広げた後、表面を何カ所かつついてひっぱり、つんつんさせているところ。
  • 表面をつんつんさせたパーツは新作。「水の星」と名付け、今回ネックレスになって登場します。加工の仕方に決まりはなく、手を動かしながら発見することが多いそう。
  • 制作途中のガラスのパーツを休ませておくラックは友人の彫金作家に作ってもらったもの。
どんな小さなパーツでも中心を意識
 さまざまな形をしたガラスのアクセサリーのパーツは,工業用のガラスの管や棒をバーナーで熱して溶かしてつくっていきます。ガラスが溶けて自由に波打つ、そのこと自体も、その瞬間を止めることができるのもとても素敵に思えたのが、ガラスを素材に選んだ理由のひとつと廣田さん。
 「すごいといわれるガラスの作品があっても、その途中がかわいいのに、それ以上やらなくてもいいのに、と思うことがあります」。でも、溶けるガラスを瞬間で止めてなにかをつくるときはいつも集中、意識するのは中心に向かうこと。どんな小さなパーツでもそれがないとぼけたものになってしまうと言います。袴の紐はだてではありません。
  • バーナーで加工したガラスは熱の入り方が一定でないため割れやすい。そのためオーブンに入れて全体に再加熱して安定させます。
  • 工房には実験道具のような不思議なものがたくさん。これはガラスの表面に砂をかけ、「フロスト(霜)加工」する箱。
  • 葉っぱから落ちる雨のしずくをかたちにした「しずく」のピアス。体のうごきにあわせてふらっと揺れる。
  • 波打つ水面を表現した「みなも」。お子さんがまだ小さくて子育てがたいへんだった頃のモチーフで「戦うような気持ちが表れていますね」
  • ガラスのパーツを配置してアクセサリーを仕上げて行きます。間隔や、フロストのはさみかたは、心地よいリズムをイメージして。
  • 樽型のこのガラスも新作。シルバーの留め具でシンプルなワイヤーにつなげていきます。
  • 麻ひもに「しずく」のガラスをつなげたネックレスは廣田さんも大好き。大橋が最初に廣田さんを知ったのもこのアクセサリー。去年イオショップ&ギャラリーで個展を開催するきっかけになりました。
子供を小脇に抱えながら
 ガラス工房というと炉があって、長い棒に溶けたガラスをまきつけて回したり、吹いたり。そんな大がかりな場所を想像していました。でも廣田さんの工房は4畳ほどとこじんまり。
 「私が学生だった頃、家や暮らしの傍らにガラス工房を持つスタイルが世界的に起きました。当時参加したワークショップで、アメリカや北欧から招かれた女性ガラス作家たちが何人も『私のガラスのいちばんのファンや批評家は自分の子供たち』とおっしゃるのを聞いて、とても素敵だなあ、と」。廣田さんは自分も子供を育てながら仕事をしたい、と思ったそう。
 「場所を取らず、扱いが比較的ラクなバーナーワークなら子供を小脇に抱えながらでもできると、方向を定めました。まだ結婚相手もいないうちから(笑)。でも、実際は個展をする時に子供を置いていっちゃっていいのかな?とか、なかなか冒険ができないタイプ(笑)。個展も去年がはじめてでした」。
自然と心地よい音がモチーフ
 工房から居間に移動し、アクセサリーの組み立てを見学していると、外は突然の夕立に。雨がざあざあ降ってきました。
 「こういうときいくらでも庭を見ていられる」と廣田さん。モチーフやデザインが浮かぶのはこんなとき。雨の日に葉っぱから落ちるしずく、水面の揺れ、植物の細部など、見飽きることのない自然の断片を自分の身体とガラスを使って表現したいと言います。
 「母が家でピアノの先生をしていて、小さい頃から音楽の中にいたからでしょうか、耳に心地よい音楽を感じでいたいんですね。透明なガラスのきらめきはそれにもとても近いんです。アクセサリーをつくる時は音を置くようにガラスを置いてつなげていますね。ここにリズム、ここにシャープとアクセントを置いて、と」。
 廣田さんのガラスのアクセサリーを身につけることは自然や心地よい音をそばに置くこと。でもこの透明なアクセサリー、実はメジャーなものではないらしいのです。
 「私はいちばん追求したいものなのですが、目立たないとか、色がないのは寒々しいとか思われる方がいらっしゃるみたいで」。いやいやそんなことはない!ということで次回第2話は実際身につけ、それを証明してみようと思います。
 
ページトップ