特集 「entoan」の櫻井さんとつくった革のバッグ
第3話 革のトートができるまで
 「entoan」の工房でお話を伺ったあと、実際にa.の革のトートの制作過程を見させてもらいました。今回はそれをご紹介したいと思います。
 制作は大きく次の4つの工程に別れます。
 「革を裁断する→ポケットや持ち手などのパーツを作る→各パーツをつなぎあわせる→仕上げ」です。
 そのすべてを櫻井さんと富澤さんがやっているのですが、見学していると改めて、たくさんの細やかな仕事を積み重ねてバッグができていることがわかりました。ふたりの職人技の数々をご覧下さい!
革を裁断する
  • 作業台の上、紙に包まれているのは櫻井さんが選んでくれた特上等の革です。数枚をロールにした状態ですが、持つと結構な重さ。そうでしたa.のバッグの革はしっかり&しっとりしています。時にはこれを何ロールもかついで運びます。
  • 最初に革の状態をチェック。自然のものなので1枚ずつ状態は違うし、上等の革でも虫さされなどの傷があるのです。同じバッグに使う革のニュアンスはそろえたいのでシボ(皺)も確認して、各パーツを取る位置を決めます。
  • 革の上にバッグのパーツを置いてもらいました。大きな四角の本体が2枚、持ち手(右下)が2枚、ポケットの縁(右)が4枚、そしてポケットの上部が2枚(左上)必要です。(左下はポケット本体で帆布になります)。1枚の革からとれるのはすごくうまくいってトート2個分までです。
  • 本体パーツの裁断用の型。下のほうが刃になっています。裁断は工房ではなく、知り合いの靴工房で機械を借りてまとめてやっています。1日がかりで慎重に裁ちます。
各パーツをつくる
  • 右は赤いトートの、裁断したパーツ。左は黒いトートの、ポケットパーツと本体をつなげ、それを2枚縫い合わせたものです。赤はこれから持ち手やポケットの制作にとりかかります。黒はこれから表に返して、持ち手をつけます。
  • 裁断した赤の本体に、持ち手をつなげるステッチ用の針穴を開けます。よく見ると3個横に並ぶ穴のうち真ん中が少しだけ大きい。これは針と糸を通す回数が左右の倍になるからです。
  • ミシンに似ていますが、これは革をすく機械です。革を折って重なるところはすいて薄くして厚みが出ないようにするのです。
  • 持ち手の両端とポケットの折り返し、本体の角など、革が重なる部分をすいた状態です。革のショルダーバッグでは、入れ口部分で革が6枚重なるところがあります。それそれの箇所にあわせてすき加減を変化させます。
  • 革はイタリアのバダラッシ社のもの。裏側に1枚ずつ刻印されているのは等級(右の1。最上級を表す)とサイズ。(10㎝四方が1デシ。111は111デシ)。タフに使えてそれでいてヘビーすぎない。それも選んだ理由のひとつ。
  • 持ち手をつくっているところです。革の裏側、中央に芯地を1枚貼り、左右のすいた部分にゴムのりを塗ります。
  • のりを少しかわかしてから端を折り曲げ、ハンマーでたたいて押さえます。
  • ポケットの上の部分も同じようにすいた部分にゴムのりをつけて折り曲げ、ハンマーでたたいて押さえます。
  • 持ち手にも本体と同じように手縫いステッチ用の穴をあけておきます。まずは。型紙を載せて針穴の位置を確認、銀ペンで印をつけます。
  • これ専用につくった3つ目の目打ちを使ってハンマーでトントン。
  • 持ち手の中央にミシンでステッチを走らせます。丈夫で持ちやすく、そしてちょっとアクセントになっています。裁断からここまで、持ち手のパーツが仕上がるまでに10工程になります。
パーツをつなぎあわせる
  • ポケットはこんなふうになっています(これは完成品です)。本体は厚手の帆布。トートの入り口から見える上部と左右の端を包むのに革を使うことで、見た目がいいだけでなく、ほどよい重さが加わり、ポケットが安定して使いやすくなっています。また、ポケットと本体の間に持ち手の端をはさみこみ、持ち手の端が外に出ないよう覆う仕組み。これでバッグの内側がすっきり。
  • 持ち手を挟み込む部分を残して、本体とポケットをミシンで縫い合わせます。ミシン目が外にでているのは、ここだけです。
  • 本体を2枚縫い合わせます。苦労したのが角の部分で、左右の曲線が揃わなかったり、いびつだったり。大橋の求める自然なカーブになるまで、櫻井さんは角の革のすき加減やミシンの糸の強さの調整など、誤行錯誤を続けました。
  • 縫い合わせて表に返して。ようやく納得できる仕上がりになった、角のカーブです。
仕上げ
  • 本体2枚を縫い合わせたら表に返して最後の仕上げ、持ち手を手縫いでつける作業にかかります。使う糸は蝋引きの麻糸。櫻井さんが靴をつくるときによく使う糸です。
  • 1針ずつ慎重に。同じ穴を通して繰り返して針をさすときに、前に通していた糸を割らないようにするのがきれいに仕上げるポイントだそう。
  • 「大橋さんの思っているものを形にしたいと思っていますが、実際形にするのは僕の頭と手なので、なんとなく自分は出ているのではないでしょうか。『自分がつくりました』といえるものをつくろうと思っています」と櫻井さん。
  • 縫い終わったら、糸の上からハンマーでたたいて落ち着かせます。これで糸のほつれも防ぎます。さあ完成です!
  • 時間をかけてていねいにつくられたバッグは、ひとつずつ布の袋に入ってお客様に手渡されます。
革のショルダーバッグ
今回はトートバッグの制作を中心に見せてもらいましたが、a.ではショルダータイプのバッグもつくっています(写真右)。こちらは大橋が毎日のように使っていた「ペタンコ帆布バッグショルダー」(写真左)が原型です。こちらもトートと同じように試作を繰り返しました。
  • 最初ハンドルは片方がからだ側、もう一方がバッグの外側についていました。斜めがけをするとそのほうがからだになじみます。手前はそのサンプルです。でもこれだとファスナーが使いづらい。ハンドルは片側につけることにしました。長さは女性・男性どちらにも使ってもらえるように試しながら調節しました。
  • 手前のサンプルはよく見ると本体の中央で革をはいであります。このほうが本体を1枚仕立てにするより革のロスが少ないからです。でも加工に手間がかかり、最終的に見た目もいい1枚仕立てにすることにしました。
  • ファスナーもシルバー、ブラック、アンティーク調といろいろ試してみました。最終的にアンティーク調を選んで使いやすいように革のストラップをつけました。長めにしたことで、いい感じのアクセントになっています。
 
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