特集 a.の服づくり
第2話 a.の服ができるまで。
大橋の描いたデザイン画です。「今までいろんな服を着てきたこと。人が好きだし、人の格好を見るのもすきなこと。そういうのが縦糸と横糸になって服のデザインにつながっているように感じます。時代の空気みたいなものが私を通して何かになる、ということが絶対にあると思います」。
シーチングで作った、シャツジャケットとショートコートのトワルです。平面だったデザイン画が立ち上がるのはとちょっとわくわくします。最初にこれをモデルさんに着てもらい、パターンや布のボリュームなどをチェック、実際の生地でサンプルをつくるもとにします。
パタンナーさんとモデルさん、大橋と生産管理担当のスタッフの4人でサンプルチェックをしているところです。遠くから見ている大橋はデザイナーぽっい雰囲気ですが「デザイナーではないんです。着たい服をつくりたかっただけ」と言います。
モデルさんが試着しているのは新作のカットソーのタンクトップです。ずっとつくりたかったアイテムでカーディガンもあり、ツインニットのように着られます。襟ぐりはa.らしさのあらわれる部分。つまり気味だけれど窮屈ではないディテールを探します。
  • こんどは白衣風コートのサンプルチェックです。サンプルは後ろにスリットがありませんでしたが、足さばきがいいように入れることにしました。パタンナーの平野さん、仕事用具の入っているポーチから細い接着テープを出してコートに貼ります。
  • 「これぐらいですか?」「もうちょっと短くていいかも」「これぐらい?」「もう少し」「これぐらい?」「そうね」とやりとりしてスリットの長さとステッチの角度が決定。
 a.の服づくりの流れをざっとお話しすると、まず私がデザイン画を描きます。デザイン画は、ふっと思い立ったとき、そばにあるノートにメモすることが多いですね。ふっと思い立つのは他の仕事を離れ、ひとり家の机の前にいる時です。そしていよいよ決めなければならないタイムアウトの時期になると、メモしていたものを参考にして形を考えまとめるんです。
 デザイン画ができたら、それをパタンナーさんへ渡してトワルをつくってもらいます。トワルは、サンプルのひとつ前の段階。これができるとモデルさんに最初の試着をしてもらって修正をします。それまでに生地見本から使いたい生地を選んでおかないといけません。トワルのチェックが終わると、その生地で今度はサンプルをつくってもらうんです。
 サンプルが完成したら、またモデルさんに着てもらってチェック。事務所のスタッフや私が試着することもあります。それで感想を言い合ったり、パタンナーさんに相談したり。この時点でいいなと思う服もあるけれど、もっとこうしたいと思う服もありますね。
 デザイン画は平面で、それが立ち上がってトワルやサンプルになって人が着てはじめて私には実態が見えてきます。納得のいくまで生地を変えたり、ディテールやパターンを変えて、サンプルを作り直してもらうことを繰り返します。一度洗ってみて様子を見たりもします。
 サンプルの次は製品化です。パタンナーさんは最終的に型紙を完成させ、S、Mとサイズのあるものはサイジングをして、ステッチのピッチとか裏地のつけ方とかたくさんの細かい指示を仕様書にまとめくれます。一着作るのに布がどれぐらい必要か、採算の可否はどうか、SとMのわりふりはどうするか、そういうデータを管理するスタッフもいて、それらをもとに縫製会社へ生産を依頼します。布の手配や縫製会社とのやりとりは生産代行をしてくれる人がいてその方を通しておねがいしています。
  • 「大人のおしゃれ」で紹介するA.の服のモデルをクラスカギャラリー&ショップドーの大熊さんにお願いして撮影しました。裏毛ジャケットとボタンダウンシャツ、チノパンのコーディネート。ちょうど「村上ラヂオ挿絵版画展」を開催中で展示してある銅版画が背景に。
  • 大橋はデザイン、スタイリスト、カメラを担当。「メンズは基本的な形があって、時代のシルエットに置き換えるのがおもしろい。これこそやりたかったことです。それぞれのシンプルを考えて素材をいいものにして、うちのが着心地がよかったと選んでくれてリピーターになってくれるとうれしいですね」
今現在の駒沢のイオグラフィック ショップ&ギャラリーです。冬のシーズンのディスプレイですが、こんなふうにいつもいろいろコーディネートしてa.の服をご紹介しています。2013年春夏の服の展示会は3月14日からを予定しています。
「大橋さんのデザイン画からはつくりたい服の雰囲気がすごく伝わってきます。女性への気遣いも感じるのでそれらを大切にしてパターンをつくっています」とパタンナーの平野さん。平野さんのメモ用のデザイン画には細かな書き込みがたくさん。
 それと平行して「大人のおしゃれ」のa.やA.のページの撮影や、カタログの制作、そして展示会も始まります。
 そうこうしているうちに服ができあがってきます。事務所でスタッフがひとつずつ縫製などを確かめて、ようやく取り扱っていただいている各地のお店へ送ったり、イオギャラリー&ショップに並ぶ。それを年に2回やっています。今は春夏物は1月末ぐらいから、秋冬物は8月から展示会をさせていただいているのでそれを目標に。
 服をつくりたい、と思ったものの、最初は服をつくる工程を何も知りませんでした。でも困っていると誰かが教えてくれるんです。パタンナーさん、そして生産代行の人も紹介してもらいました。生産代行の方は私が何度も質問するので心配になったんでしょうね、最初の頃、始終来てくれました。服づくりはひとりではできません。自分がおもしろいだけではすみませんし、何かと人と相談することも多いです。
 なかでもパタンナーさんの力は大きいです。たとえば今シーズン丸襟のシャツをつくりましたが、私、コムデギャルソンの丸襟のシャツが大好きなんです。でも基本的に同じになるのはいや、というのがあって少しでも抵抗したいんですね。a.ならばどうなのか、年齢が高い人でも着やすいようにするにはどうしたらいいかを考えるというかたちで。そしてその意図をなんとかパタンナーさんにくんでもらおうとへたなんですけれどデザイン画にはこだわっていっしょうけんめいに描いて渡します。コムデギャルソンのシャツをサンプルのように渡すことも、「ああいうみたいなのが欲しいんだけど」と言うことも基本的にしません。世の中にいいものはたくさんあるから、必死の抵抗なんですけれど。
 ただデザイン画を渡してパタンナーさんの解釈が違うと全然違うものになってきてしまう、これまでそういうこともありました。私がどこか弱気なところがあって、自分のやりたいことを伝えきれなかったんです。でも「この人はちゃんと通じる」と思える人に巡り会うことができたんですね。今お願いしている方はデザイン画をじーっと見て的確な質問をしてくれます。それでみえてくるものもあるし、望んでいるのに近いものを出してくれます。
 丸襟のシャツも、襟ぐりのつまりぐあいや首の見えかたなど、着やすくて感じよくできました。よかった、と思うことが多いし、そうでないときもに試行錯誤をするのが苦ではないのです。


「特集a.の服づくり」、次回は、話の中に登場した丸襟のシャツをはじめ、2013年の春夏の新作を、いち早くご紹介します。
 
ページトップ