特集 a.の服づくり
第1話 a.3年目を迎えて。
「大人の普通の服がないので、つくることにしました。窮屈じゃない、それでいていい感じに見える形の服をつくっていきたいと思っています」。2011年a.の春夏カタログより。
展示会のDMは毎回大橋の描いたデザイン画で。2013年春夏ものの展示会は、奈良、愛媛、高知に続き、2月13日から高松、2月16日から岡山で開催されます。
 服をつくるのは毎回「たいへーん」です。今年の春夏ものもようやっとサンプルができて、今、各地で展示会を開いて服を見たり着たりしていただいています。試着なさった方がお似合いだと「ああよかった」って。すごくうれしいですね。
 この仕事を始めた時に、服づくりに詳しい人に「3年目が大事だよ、大変だよ」と言われたんです。最初は「こんなのをつくりたい!」という勢いがあるから大丈夫だけれど、3年で出つくしてしまうからって。でも、今はね、なんとか、結構進んで行けるかな、と思っているんです。
2012年春夏もののVネックワンピース。ほどよいゆとりや袖の長さがきれいに見せてくれます。上質のポンチ素材。さらりと肌触りがよく、洗濯に強いのも好評でした。2012年a.春夏カタログより。
今年2013年春夏用に新しくつくったショートコートです。「自分には似合わないけれど、人が着ていていいな、と思い『a. でつくるならば…』と形や生地をいっしょうけんめい考えました」(大橋)
モデルに着てもらいサンプルチェックを繰り返します。たっぷりだけどたっぷりすぎない布の分量感。後身頃は縫い目のない一枚仕立てにしました。
 3年前に服づくりを始めた時は基本的に自分が欲しいものをつくろうと思っていました。すとんとしたワンピースとかステンカラーのコートとか細身だけれど股上がゆったりしているパギンス。ただなかには「はっきりとはわからないけれどこういうものもあるといいんじゃないかな」ということでつくってみた服もあるんですね。
 例えば水玉のワンピースやVネックのワンピースなどです。水玉のワンピースのほうはつくってみたらすごく人気があって、私も実際着てみたらよかった。偶然(笑)。
 Vネックのワンピースは、特別なことはなにもない、襟なしのただまっすぐのワンピースで、私はこけしみたいな体型なので(笑)似合わない。でもつくったのを人が着ているのをみるとすごくいいんです。
 3年続けるあいだに、お客さまに服を着ていただいたりスタッフが着ているのを見てこられたことで、自分が「着たい」にとどめないことにしよう、人が着て「いいかも」で進めることができる、と思うようになりました。そのへんは3年前とは変わってきましたね。少し余裕ができたというか。
a.をスタートさせたとき、いちばんにつくりたかったワンピース。今も定番ワンピースとして継続して販売しています。2011年a.春夏カタログより。
定番ワンピースをベースに、今回つくった麻のVネックワンピースです。裾のシルエットがより美しくなるよう工夫しました。定番のシルエットは好きだけれど襟がない方が好き、という方に。
 同時に3回目だから新しいもの、というよりは、いいなあと思っていたもの、やりたいと思っていたことをちゃんとやろうという気持ちもはっきりしてきました。
 最初からつくっている定番のワンピースはらくちんできれいに見えて、いろいろな体つきの方に着ていただけた。a.の思いが形になった服でしたが、すごく人気がありました。それは大事なこととして、でももうちょっと着やすいようにしよう、襟がかわいらしいという方もいらしたので一度Vネックで作ってみようと思いました。この春夏の「麻Vネックワンピース」はそうしてできた服です。
1月末に奈良でさせていただいた展示会の様子です。お客様と「くるみの木」スタッフの方にモデルになっていただき、着こなしレッスン。
こんな風に展示していただきました。a.どうしで、またはお手持ちのいろいろな服と、コーディネートが楽しめるものを、と考えてつくっています。
 a.の服は基本的にはなんでもないものです。デザインがおもしろいということにはならないし、そういう気もないので、いろいろな意味でていねいにつくっていくのがいいような気がしています。着てもらった人が「着やすいね」となるようなものをつくっていこうと。
 ただ、飾りのない服はちょっとそそらないというか(笑)むつかしいです。それをアピールするのもむつかしい。でも先日も展示会で、
「今までは飾るのがいいと思っていたけれど、こうやって何もない服を着てみて素敵とわかったからこれから挑戦してみたいと思います」とおっしゃっていたお客さまがいらして。
 ある年齢になると、大人になると、いろんなものがその人にくっついているじゃないですか。決して少女みたいななにもないというわけではなくて、それぞれの人が個性的になっている。すると逆にシンプルなもののほうが素敵に見えるというのが私にはあるんです。それをもう一回意識して、いい形に進めていきたいです。
幅広パンツは、同じパターンですが、生地を変えるととても新鮮です。特に白は今年のいちおし。清潔感があって活動的。メンズにも使われている生地を選びました。
昨年の幅広パンツのチノです。スタッフのひとりが重宝してほんとうによくはいていました。はいて洗ってを繰り返し、いい感じになっています。今年も活躍してくれそうです。
 服づくりは試行錯誤の連続で、先シーズンにつくりたいと思って進めたけれど、途中でうまくいかなくてもう一回素材やパターンを考えてチャレンジして、ようやっと今回出せるものもあります。今回つくろうと思ったけれど、ちょうどいい生地がみつからなくて、急いで出さないで次にまたトライしよう、となった服もあります。
 また、例えば幅広パンツは去年と同じ形のものを今年もつくっていますが、素材を変えたことで新鮮な感じになりました。洗っているうちにいい感じになるような生地を心がけて選んでいるので、たぶん去年のパンツもはきやすく感じよく履けるようにそれぞれの方のところで育っていると思うんです。だからそれに組みあわせて着られるものがあるといいんじゃない? そう思ってトップスをつくってみる。そんなふうにつながっていくし、広がっていく。おもしろいです。
 服づくりはたいへんなこともたくさんあるけれど、まだまだできることがあるように思います。
 
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