吉本由美さんは猫と暮らしてきた。 大人のおしゃれ
第4話 悲しい思い出
 

由美さん それで私はびっくりしちゃって、夜中だったけどいつも行っている近所の病院に電話して。とりあえずすぐに連れてきてって言われて連れてったの。そしたら交通事故じゃないねって。爪が全部剥がれているから崖から落っこちたかなんかしたんじゃないかなって。
大橋 崖があるの?

由美さん ある。裏のお墓のところに崖が。普通猫ってそういうことはないんだけど、何かがあって不注意にそういうことが起こったかもしれない。それで下が駐車場でコンクリートだから。車止めなんかで大きなブロックがあったりするからそこに背骨を打ったかもしれないって。一晩預かってくれて、そこは普通の動物病院だから脳波とか背骨のこととかができないので、池袋のずっと先にある動物専門の脳の病院まで行って入院して。2週間かな、ICUみたいなお部屋に入って毎日お見舞いに行って。本当にかわいそうなの、苦しそうなのよ。
大橋 やっぱりだめ?
由美さん なんかね、春樹(村上)さんも行ったよ。青木さん(修業していたバーのマスター)も行った。お別れするとかって言うから。
大橋 そう、それでだめだったの。
由美さん 死んでしまった。もう私その前に彼と大げんかしたのよ。落ちる前に。
大橋 どういうふうに?
由美さん だってあの子、とにかく野良猫を入れたことが許せなかったから、こういうレコードとか本に向かってオシッコをシャーって。その度に私は逆上して怒るじゃない。どんどん仲が悪くなる。それである時、朝寝てたらクックッて頭を叩くんだよ。何って振り向いたら後ろ向きになって、尻尾をピーって立ててオシッコをジャーってかけたの〜顔に。

大橋 うそ、本当に?
由美さん もう私逆上だよ。「バカっ、お前なんて出て行け、死ね!」っておっきな声で叫んじゃったのよ。そしたらそれがその翌日なのよ。もう本当に後悔した。偶然なんだろうけどさ、心に大きなしこりが残っちゃって。本当にターちゃんに悪くってね。ごめんなさいって感じで。管理人さんもすっごいかわいがっていたからわんわん泣くしさ。
大橋 やっぱり嫌だったんだよね、きっとね。
由美さん なんかね。あのマンションはすごい楽しかったんだけど、そういう例えばススが白血病でかわいそうな死に方して、それでター坊がそんな死に方して。あとは友達の子のナナっていう子が上の7階から落ちてさ。
大橋 あぁ、なんかの時にその話してなかったっけ。
由美さん アルネの最初の頃に書いたの。それもすごい辛い半年だった。毎晩探しに行ったのね。それもあるし、結構きつい思い出があのマンションにはある。
大橋 でも本当は、みんなと猫を共有できていいマンションだったんだけどね。
由美さん 悲しい思い出が多すぎちゃって。

大橋 そうだったんだ。その時ター坊が落っこちてからは。
由美さん そう、ター坊が死んだでしょ、本当にこれで猫は終わりと思ったの。もう絶対飼わないって思ってたのに、ターちゃんが死んで2ヶ月後くらいの夜にさ、黒い猫が入り込んできたの。庭の向こうから。これがまたかわいくってね。
大橋 あらら、どういうこと。それでその猫は?

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