今日のわたし
更年期障害? 閉経? 不安で不快でくやしいこと

 その年齢になってみなければその年齢のことはわからないんだと思います。
 考えてみたら10代の時も20代の時も30代の時も、それぞれとまどいながらやってきましたが、60歳をくぐる一歩手前の今(2000年某月某日)はとまどいがチリチリと深いのです。60歳からは老人なんですものねぇ。
 こんなことばっかりこのところ考えていたので、老人とはなんぞやと、身辺に散らばっている関連のものが、気になって仕方がありません。ついこの前は新聞にはさみこみちらしの中に、「定年時代」という小新聞を見つけました。ケアつきのマンションの広告などが多く、このことについては母が動けなくなった時のこともあるので、見比べたりしてページをめくっていたのですが、突然「短時間で焼ける窯」の見出しの活字が目に入り、オオ! 死体を焼く窯まで広告しているのか! と驚いて窯の写真をよくよく見れば、陶器を焼く窯のようで、もう一度読み直してそりゃそうよねぇ、死体を焼く窯の広告であるはずがないと一人苦笑してしまったのでした。頭の中は介護が必要になった時のことばかりだったので、そのもう少し先のこと、人の死と窯の文字が結びついてしまったのでした。
 実際私には70歳の痛み、80歳の気持ちはわかりません。今私は60歳のしんどさ、老人というエリアに足を踏み入れる切なさで胸がいっぱい。
 母が遊びに行っている区立の老人施設には、60歳から入会できるそうです。60歳は正しい老人ですから。本当です。先日母の用でその施設に行きました。まさに定年したてという感じの男性も、腰の曲がった老人たちにまざって、おしゃべりしていたんです。体がしゃんとしていて、立派に見える男性でしたから、そんな所(というと失礼ですね。だってまだまだ働ける体つきなんですもの)で時間潰していていいのかなあ、もったいないなあと思ったのでした。
 でもはっきりいって定年になったら行く所はありませんのね。定年後も働ける場所があればいいのですが、この不況の時代、老人の働き場を見つけるのはむつかしいようなのです。家の中でごろごろしていてもつまりません。きっと一生懸命会社に尽くしてきた世代でしょう。家族さえ犠牲にして働いてきたら、趣味など持つ暇さえなかったんじゃないでしょうか。気兼ねなく人とおしゃべりできる場所が老人施設だった。
 あの窯、陶器を焼く窯、定年時代新聞の広告は趣味で生き甲斐を見つけるのはどうかの誘いなのでした。趣味、そういえばカルチャースクールという趣味を深める講座が普及したのはずいぶん前のことになります。当時私はバリバリ働いていました。怖いものなんてなんにもありませんでした。お金がなくても、仕事さえあれば大丈夫と強気でした。でも普通の主婦をしていた友達の一人は、育児も一段落して、時間もあるようになって、カルチャースクールに通い出したのだそうです。彼女いわく「習うでしょ、つくるでしょ、時間があるからいっぱいつくるの。で、そのつくったもの、どうにもしょうがないの。趣味だもの、あなたのように仕事には結びつかない。むなしいの。なに習ってもいきつくところは同じなの」。
 その彼女の話を聞いて私は、そんなことこぼしに私に会いにこないでよって、心の中で思っていたのでした。暇潰しに仕事で忙しい私の時間を潰さないでよって。実は彼女もはんべそかいていたけど、私もはんべそかいていたのでした。
 その彼女の趣味のカルチャースクールの話を、今急に思い出したのです。彼女のようにむなしくなるか生き甲斐になるかは、人それぞれだと思う。
 例えば陶芸を習う。たかが茶碗、鉢、皿だけどそうそううまくできない。そこそこは形になるけれど、思うようにはつくれない。それで飯を喰っている人がいるんだもの、素人が簡単によいものをつくれるはずはないじゃありませんか。簡単にはすぐれたものができない、だから続けている、それが面白いと思う人もいると思う。
 そんなことにエネルギー使うより、老人達とお菓子持ちよりでだべって楽しく1日過ごすのがいいと思う人もいる。
 カルチャースクールに行かなくなった彼女の話を聞いたのは、私が40代のころのことでした。そのころ、私は60歳までを頑張ると決めていました。実は私40歳になった時えらく年をとったと思ったのでした。39歳と40歳って、一年しか違わないのに、40歳の誕生日を迎えたとたん落ち込んで、しばらくふさぎこんでいました。20歳からの20年はいろんなことがありましたし、やりました。じゃ、60歳までの20年間も充実させることができるだろうと思い、元気をとりもどしたのでした。
 ハハハ、40歳からの20年間は、またたく間でしたよ。20歳からの20年間とは濃さが違いましたねぇ。ちょっと薄かった。でも、それなりによいこともありました。60歳からの20年間? 20年間はないかもしれませんね。どうしようかしら。

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第27話