今日のわたし
身のまわりもスリムがいちばん

 今日は台所の棚の中を整理しました。一年前に余分な食器や調理器具をかなり処分したので、棚の中に余裕があり、食器棚と背中合わせになっている居間側の収納棚に入れてあった、水差しやワインクーラーやデカンタやワイングラスを台所の食器棚に移して整理しました。その中には処分したほうがいいような物(ワインクーラーやデカンタなんかはほとんど使わないから)がないわけではなかったけれど、今日のところはとりあえず移動だけ。
 捨てるってエネルギーがいるのですよ。使えるものをゴミにしなきゃならないもの。もったいないと思う気持ちと戦わなきゃならないもの。
 私の世代は、物のなかった戦後を忘れ去ることができません。それってすごーくやっかいですのよ。
 物が豊かになりましたが、今日に至るまでには階段がありました。前にはなかったいい物が出てきて(その時点ではすごーくいい物と思う)、うれしく手に入れるのです。3年もしないうちにもっといい物が出てくるから、当然手に入れます。また3年もしないうちにもっともっといい物が出てきちゃう。やっぱりいい物はいいから、手に入れないでは収まらない。
 気がつくと棚の奥に使いもしない物がぎちっとつまっていたのです。そして今やしまいきれない物が床の上にはみだしてきた。使いもしない物のために、都会住まいの貴重なスペースを占領させておくわけにはいかないと考えるのだけれど、処分するにはもったいない気持ちと戦わねばなりません。だって物がなかった時代のことを忘れてしまえないのですもの。
 物がない時代が身にしみているからこそ、いい物を見ると手に入れないわけにはいかない、そのことと捨てられないこととのはざまで、近ごろ私はほとほと疲れてる。
 故猪熊弦一郎さんの『画家のおもちゃ箱』という本の中に、猪熊さんのお友達のルドフスキーさんは、「お皿を6人前しか持っていないので、使ったお皿は洗って、次の料理を盛る。セカンドハウスには椅子は2脚しかない。プールは一人しか泳げない幅につくられている」とありました。そしてシンプルな生活はうつくしく楽しく、ルドフスキーさんからいろんなことを教えられたともお書きになっていました。私はルドルフスキーさんに憧れ、時々このページを開きます。するとがぜん棚の中の物を片づけたくなり、棚に首をつっこむのです。でもま、私程度だからなかなかシンプルな生活にはなりません。
 俳優の故沢村貞子さんが、老後ご主人と葉山に移られた時、着物も食器も本当にいるのだけになさったと、お話されているのを読んだことがありました。私もそうありたい。
 ルドフスキーさんと沢村さんが、私の目標です。
 でも今日は2つも持っているデカンタを1つも処分できなかった。あれ高かったしねえ、持っているだけで格好いいような気がするしねえ。
 ぜい肉は体ばかりにつくわけじゃないね。老人になったらスリムな生活が健康の基本と思う。

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